黒薔薇の花言葉

千歳先輩が気に入ってるという隣町の小さな植物園。人に教えるのは初めてだと微笑まれて少し恥ずかしく思った。(俺のほうがここにいる時間は長いのに、九州からきた千歳先輩に教えられるとか、変やけど)
小さな植物園。と、平日の昼間。という最高で最悪な状態。つまりなにがいいたいのかと言えば、誰もいない。そういうこと。
悪いことはないけれど。

少し歩いたところに、世界の薔薇特集?らしくものがあって、千歳先輩の気紛れにされるがままされ、強引に(おっと失言)腕を引かれ特集のブースにきた。
花屋に置いてそうな普通の赤い薔薇やら、白やら黄色やら橙やらの色とりどりの薔薇。写真だけなら青薔薇もあった。

その中でひときわ目立つ、いや、嘘だ。俺の気を引いた、一輪の薔薇があった。

ブラックバカラ

黒薔薇


柄もなく魅入ってしまった。紅薔薇だ。ワインレッドみたいな色の、黒くなんかない黒薔薇。


「なにみとっと?」

青薔薇の資料を見ていた千歳先輩が、まじまじと黒薔薇をガン見していた俺の隣にいつの間にかきていた。

「変っすね、これ、赤いのに黒薔薇」

素直に、綺麗だと言えなくて、すごく自分がアホみたいだと思った。花にまで悪態つけるとか、ほんまアホや。


「あぁ、ブラックバカラ」
「知ってるんすか?」「うん、俺もこの花好き」

にこりと微笑まれて、ついでに頭をクシャクシャとなでられる。(いやじゃないけど頭のセット乱れるのは堪忍や)







帰り道に手を繋いで帰った。今日も、泊まりの予定だから、夕飯はどうしようかとか、コンビニでシュークリームでも買っていこうか、とか。
ふと沈黙が続いて、先輩が何か考え事をしてる気がした。いや、実際していたけれど。だって、うーんだの、なんだの呟いてたし。

「光くん」

考え事がまとまったのか先輩はひどくすっきりした表情で、俺の手を握る力を強くするのと同時に俺の名前を呼んだ。

「ブラックバカラ、黒薔薇の花言葉、わかる?」

何を言い出すかと思えば。

「俺がそんな乙女っちくなもん知ってると思います?」
「それもそうね」

あははって、笑い声が響く。

「ブラックバカラはね、いろんな花言葉があるんよ」
「はぁ。例えば?」

「まず、代表的なんが束縛」
「束縛」

(思わず復唱)

「貴方を呪う」
「…貴方を、呪う」

「あと…貴方に永遠の死を」
「…なんや、暗いっすわ」

ふう、と息をつく。そうすると先輩は少し困ったように笑う。(すんません、こんな反応しかできなくて)

「うん。確かに、暗かね」

眉を八の字の形にして、笑う。(この顔、好きや)


「でもね、ブラックバカラって、ほなこついろんな意味があるから。悪いもんだけじゃなかとよ」
「へぇ。まだあるんすか」
「うん。俺は、その花言葉を信じちょる」

先輩が、すうっと、息を吐く。

横顔だった顔が、俺の方を向いた。


「永遠の、愛」


とても真剣な、まるでテニスをしてる時のような、真剣な顔で。
そんなこというもんだから。


「…ほんま、恥ずかし」


顔が、薔薇なみに真っ赤になってしまった。不本意に。

(全部、あんたのせいや)

(俺がこんなに赤面症みたいになったんも)

(そんなくさい台詞に、ときめくようになったんも)


「全部、あんたのせいや」



後日、千歳先輩に花を贈った。ブラックバカラ、黒薔薇を。中学生の小遣いで花束なんか買えるわけないから一本。メッセージカードをつけて。
メッセージカードに描いた文字は、あの日先輩が口に出さなかった、ブラックバカラの数ある花言葉の一つ。


『貴方の全ては私のもの』


先輩がメッセージカードをみた瞬間の顔が、不意をつかれたような顔だったから、してやったりって少しだけ思った。




意味ワカンナイヨー
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